2018年11月24日

久野遥子 ✕ 山下敦弘|東アジア文化都市2019豊島 プロモーション映像制作について


|01|東アジア文化都市2019豊島 インタビュー特集|


東アジア文化都市2019豊島のプロモーション映像は、実写を元にしたアニメーションの手法「ロトスコープ」で表現しています。本映像のアニメーション監督、久野遥子さん、実写監督の山下敦弘さんにプロモーション映像制作時のお話を伺いました。


── ふたりが一緒に作品をつくられるのは今回が初めてとのことですが、以前から面識はあったのでしょうか?

山下敦弘(以下、山下) 実は以前、別の企画の打ち合わせでお会いしていたのです。いつ頃でしたっけ?

久野遥子(以下、久野) 確か、初めてお目にかかったのは1年くらい前だったと思います。

山下 その企画も僕が実写を撮り、久野さんにアニメにしてもらうという、今回と同じ形の企画で。でも実際に制作する順番は逆になりましたね。

久野 東アジア文化都市2019豊島のプロモーション映像は、もともと私の方にお話をいただいていたもので。でも豊島区の生活と密接した絵づくりはイメージで描くよりも、実写作品を撮られている方が挟んだ目線があるといいなと思って。そこで別の企画でお会いしていたこともあり、山下さんをお誘いしたんです。

── プロモーション映像のストーリーラインはどう決めていったのでしょうか?

山下 豊島区の担当者の方々と僕らで、ロケハンとして豊島区を色々と見て回ったのですが、「なんか色々な場所が点在している感じだよね」という印象があって。そこから自然と、ちょっとした冒険ものというかロードムービーみたいな内容になりました。

久野 ロケハンをして「一ヶ所にとどまる感じの話じゃない」ってことになりましたよね。あと鬼子母神は早い段階から「絶対入れよう!」という話に。

山下 鬼子母神は昔、違う作品でロケハンに行っていて「いつか撮りたいな」とも思っていたんですよ。あとトキワ荘も入れようと、ずっと言っていたかな。アニメファンが集まる場としての豊島区のルーツでいうと、トキワ荘が同じ区にあるというのが、ひとつのお話としてまとまる感じがあったので。

久野 私、普段の生活圏が豊島区から遠いところにあるので、ロケハンを通して「こんな場所があるんだ!」とか「ここまで豊島区なんだ!」といった発見が多かったです。

── 実写を撮影するにあたって、久野さんから山下さんへ予めリクエストしたことなどはあったのでしょうか?

久野 撮影現場には一緒についていったのですが、特に私の方からは何も。

山下 逆に僕や、撮影スタッフのほうが質問をよくしていましたよね。例えばパンというカメラをふる動きにしても、それを全部手描きにしなければいけないし、その他にも制限があったりするのか何も想像がつかないので、色々と確認をしながら撮影しました。

久野 すごくたくさん質問してくださって、ありがたいなと思いましたよ。総合的に話し合い、お互いに確認しあうことを、すごく丁寧にできて良かったです。

── 逆に、山下さんから久野さんへリクエストしたことは何かあったのでしょうか?

山下 大きな提案というのは特になかったと思うのですが、制作途中の映像を見せてもらいながら、色味などについては相談していましたね。僕の方から注文をするというより、相談をしながらつくっていった感じでした。

久野 主人公である“しま子”の表情であったり、彼女を目立たせたいから画面の中ではいつも一番目立つような色味にして欲しいとか、そういうお話はいただいていましたね。

山下 でも久野さんに助けられたシーンもあるんですよ。実写ではうまくいかなかったけど、アニメの技術でなんとか形になったり。けど、それ以外は基本的に実写のしま子の動きを全部活かしてくれましたね。

久野 しま子を演じた今岡瑛子(てるこ)ちゃんの動きがすごく良かったのもありますし、それを無くしてしまうと個性がどんどん失われてしまうんですよ。なので、なるべく動きを再現していこうと思いながら描いていました。

山下 それをまたアニメで再現できるのも、すごいよね。

久野 やっぱり元となる実写がかわいらしかったり、情緒的なところがあったからこそ、できたことですよ。普通のアニメは何もないところから描かないといけないですが、もう既に良い実写があった上で描くのでプレッシャーもなかったし、すごく楽しかったです。

山下 僕もつくっている過程が、すごく楽しかった。台詞がなかったのは、ちょっと勝負どころでしたけど、ストレスなく制作させてもらった感じがします。

── プロモーション映像の中で、ふたりが気に入っているシーンをあげるとするなら、どのシーンでしょうか?

山下 しま子と漫画家が見つめ合うシーンは、実写の“間”がすごく活かせたというか…大した動きもなく、ただ見つめ合っているだけなのですが、何かしらの時間が流れている感じがちゃんと出ているので好きですね。

久野 私も、そのシーンですね。描いているとき一番いいなというか「あ、良いシーンになったかな?」と思えました。あれは普通のアニメの手法だったら絶対にできない、リアルな時間が流れているシーンになったと思っています。

山下 でも東アジア文化都市2019豊島の『はらはら、どきどき、文化がいっぱい。』というキャッチコピー通りのものができたなっていう感じがすごくしますね。豊島区って、突出した個性は一見ないのだけど、目を凝らして見ていくと色々な魅力が散らばっている街。その特徴をひとつの作品としてまとめられたと思っています。豊島区に住んでいる人にはもちろん、区外に住んでいる人たちにも見ていただいて、東アジア文化都市2019豊島に興味を持ってもらえたらうれしいですね。

久野 あと東アジア文化都市は、これまで伝統のある街での開催が多かったと伺っていて。その中で豊島区は生活感がある街というか、生活に根ざした中で楽しい場所や、漫画やアニメの文化も感じられる場所、歴史のある場所もあったりする街。そういった街での生活の中から文化が盛り上がっていく様子を、映像から感じてもらえたらいいなと思います。


文・林みき
写真・平沼孝義


久野遥子(くの・ようこ)
2013年多摩美術大学卒業後、アニメーション、イラストレーション、漫画を中心に活動。代表作としてcuushe『Airy Me』MV、Eテレ『人形劇ガラピコぷ〜』OP、岩井俊二監督作『花とアリス殺人事件』や映画『クレヨンしんちゃん』シリーズ、TVアニメ『宝石の国』のスタッフ参加。2017年7月に初コミックス『甘木唯子のツノと愛』を刊行。

山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年愛知県生まれ、大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。卒業制作の『どんてん生活』(99)が国内外で高い評価を受ける。その後、女子高生がバンドを組む青春映画『リンダ リンダ リンダ』(05)に挑戦、スマッシュヒットを飾る。『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞・最優秀監督賞を最年少受賞した。以降『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)、『オーバー・フェンス』、『ぼくのおじさん』(16)と独自の作家性と娯楽性とをミックスさせながら様々な題材を撮り続けている。 最新作『ハード・コア』が2018年11月23日公開。