2019年8月26日

舞台芸術部門スペシャル事業 《Oeshiki Project》について



江戸時代から伝わる年中行事「鬼子母神 御会式(おえしき)」をテーマに、豊島というまちの多様性、そして「共に歩く」ことを問いながら、さまざまな人が地域の営みを深く体験する《Oeshiki Project》。御会式当日に上演する新作ツアーパフォーマンス《BEAT》の創作プロセスを関連イベントとして公開するなど、独自のスタイルで進行している《Oeshiki Project》について、ディレクターである劇作家の石神夏希さんにお話を伺いました。


── これまでも石神さんは街と演劇を結びつけるプロジェクトを数多く手がけられていますが、このような形の創作をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

石神夏希(以下、石神) 2011〜12年頃ですが、今回の《Oeshiki Project》のクリエーションチームに参加している建築家の嶋田洋平さんが、北九州の街で空き家を活用して若いクリエイターや起業家たちの活動を生み出す「リノベーションまちづくり」という取り組みをしていました。その中で、ビルのエレベーターをギャラリーにして、若手アーティストに無償で提供する取り組みがあったのですが「少し規模の大きいことをしてみたいから、エレベーターで演劇をやってみないか?」と嶋田さんに誘われたんです。エレベーターの中だけだと小さな作品しかつくれないので、ビルの空きフロアとビルが面する商店街も舞台として使わせてもらったのが、街と関わったり、都市空間を使ったりする初めての演劇作品でした。ただ、その背景としては、2005〜06年頃に横浜を拠点に活動していたのも関係しています。

当時、横浜は「創造都市」というコンセプトのもと、アーティストやクリエイターの育成や支援を通じて、街の価値を高める取り組みを始めていたんです。テナントビルを活用した拠点には、私のように演劇をやっている人間もいれば、建築家、洋服をつくっている人、壁画を描いている人など色々な人が集まっていました。劇場ではない空間を使い、演劇をやっていない人と何かをつくることが自然に起こりやすい環境だったんですね。

そういった、街の中の使われていない空間を自由に使うことで面白いものが生まれ、街にも変化が起こっていく時代の流れの中にたまたまいて、結果としていまのように街と演劇を結ぶ活動につながった気がします。それに私は、演劇と普段関わっていない人たちと、どうやって一緒に作品をつくれるかということに興味があるので、つづけているのだと思います。

── 《Oeshiki Project》の特徴のひとつとして、創作プロセスを公開していることが挙げられますが、なぜプロセスを公開しようと思われたのですか?

石神 演劇を見ることも、見せることも大好きなのですが、舞台の本番までの“つくる”というプロセスの中で起こることも面白いんです。人と人とが一緒につくる過程を通じて、普段は話さないようなことを話したり、見せないような部分を見せ合うことを私は面白いと感じるし、「これを体験できないのはもったいない」といつも思うんですね。

すべてのプロセスを公開しなくていいし、作品が届く喜びもある。でも、演劇には“見る”だけでなく“つくる”という選択肢もあるということを多くの人に知ってもらいたい。作品の創作プロセスに関わって「自分もこの作品をつくったんだ」とか「自分も演劇に関わった」と思う人が増えてほしいという思いもあるので、アートプロジェクトという言い方で創作プロセスを公開する形にしました。

あと、私は色々な人がそれぞれの視点から見える世界を表現する場として演劇やアートプロジェクトが機能することにも興味があって。《Oeshiki Project》も作家ひとりが語り手になるのではなく、様々な人がそれぞれ自分の言葉で語るようなものにしたいという思いがあります。

── 《Oeshiki Project》のもうひとつの特徴とも言えるのが中国出身のアーティスト、音楽家、建築家、編集者と、様々な分野のプロフェッショナルによってクリエーションチームが構成されていることです。なぜ彼らと共に創作をしようと思われたのでしょうか?

石神 東アジア文化都市2019豊島のプログラムを考えていたとき、舞台芸術部門の総合ディレクター・宮城聰さんと事業ディレクター・多田淳之介さんとお話をする中で、「海外からいらっしゃる方だけでなく、いま日本に暮らしている中国や韓国の方と一緒にできることを考えたい」ということが、まず最初にありました。

そういった中で招いたのが、中国のアーティストであるシャオクゥxツゥハンさんです。去年、海外の芸術祭で偶然、彼らの『CHINAME(チャイネーム)』という作品を観ました。それは様々な国に暮らす中華系移民の方々へのインタビューやリサーチをもとに、何が自分たちを中国人たらしめているのか、国籍とは何なのかを問うような作品でした。その作品を観て、彼らと一緒に、豊島区に暮らしている中国籍の方々に会いに行ってみたいと思いました。

あとプロジェクト自体は御会式という東京のローカルな文化を起点として始まったのですが、特定の地域の中で完結しては普遍性がないとも感じたんです。豊島区は人の流出入が激しい街で、ずっとそこに暮らしつづけない人もいっぱいいる。地域に密着した文化をテーマとするからこそ、そことつながっていない人々を視野に入れたいと考えました。

彼らの視点から見たときに御会式はどう見えるのか、池袋駅をはさんで雑司が谷とは反対側に多く暮らす外国籍の方々に対して、御会式はどんな意味を持ち得るのか、もし御会式が100年つづいたとき、それはどんなものになっているのかーーそういったことを、長い目や広い視点から一緒に考えてくれる人として、移民についてリサーチをされている安東嵩史さん、音楽を通じて人と人とがどうつながるのかを考えるアートプロジェクトを多く手がける音楽プロデューサーの清宮陵一さん、豊島区のリノベーションまちづくり事業にも関わり、雑司が谷で暮らす建築家の嶋田洋平さんに参加いただいています。

── 10月16日(水)〜18日(金)の御会式当日に上演されるツアーパフォーマンス《BEAT》は、どういった内容になるのでしょうか?

石神 街の中を移動しながら体験してもらう「ツアーパフォーマンス」という形式です。そこで暮らしている人たちや、彼らの暮らしに触れられる内容にしたいと考えています。誰かが舞台の上で演じるのを客席から見る演劇とは違って、観客自身も街を歩き、アーティストやパフォーマーと一緒にその場をつくりあげていくパフォーマンスです。本当は、客席に座っているだけでも一緒に作品をつくっているのですが、今回はもうちょっと具体的に体を動かしてもらう、観客参加型の作品です。またパフォーマーも、いわゆるプロの方だけでなく一般の豊島区民の方にも参加していただくことを考えています。

参加者の皆さんはパフォーマンスを体験した上で、実際に御会式の行列に合流して一緒に太鼓を叩きながら練り歩くので、ただ御会式を見るだけとは全く違った体験ができると思います。

この「共に歩く」というのは《Oeshiki Project》の根幹にあるテーマです。プロジェクトにご協力いただいている法明寺のご住職、近江正典さんに初めてお会いしたとき、「御会式で一番大切なことは、共に歩くことなんです」とお話されていました。それは慈悲とも共感とも違う「同悲」の心、お互いの悲しみに寄り添うことだと。

誰もが生きていれば人には言えない思いや、わかりあえない痛みや悲しみを抱えている。でも年に一回、御会式の日に集まって、一緒に歩く。わかりあえない悲しみの群れが共に歩いている、というのが御会式の核だと感じました。演劇もまた、わかりあえない他者同士が、劇場という時間と空間をわかちあうものだと思います。そういった共通点を見出したところから《BEAT》という作品の構想が始まりました。

── 石神さんとしては《Oeshiki Project》と10月のツアーパフォーマンスを通して、どのような変化が生まれたら良いと考えていますか?

石神 地域に根ざしたプロジェクトを行うときは、数年間つづけることが前提になります。ですが《Oeshiki Project》は今年だけなので、そういう意味でもひとつのチャレンジです。そのぶん今回のプロジェクトは、なるべく色々な人が出会うものとなるようにしていますね。色々な人が出会って混ざって、衝突もあるだろうし、楽しいことばかりじゃないかもしれないけれど、人と人とが出会えば、必ず何らかの変化が起こっていくと思います。

その変化が起こるときには私たちは立ち会えないかもしれないけれど、問題提起も含めて、先へとつながる種まきをする1年間。この1年で投入できる、ありったけのパワーと人を御会式の3日間にぶつければ、きっと面白い出会いや変化が生まれると思っています。

※雑司ヶ谷鬼子母神の「鬼」は、一画目の角のない文字を用いています。


文・林みき
写真・平沼孝義


石神 夏希
劇作家。NPO法人 場所と物語 理事長。The CAVE 共同創立者・共同ディレクター。1999年よりペピン結構設計を中心に活動。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。近年は横浜を拠点に国内各地や海外に滞在し、都市やコミュニティを素材にサイトスペシフィックな演劇やアートプロジェクトを手がける。また『Sensuous City [官能都市]』(HOME”S総研)をはじめとする調査研究、東京都およびアーツカウンシル東京との共催事業『東京ステイ』ディレクター、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点『The CAVE』の立ち上げなど、都市に関するさまざまなプロジェクトに携わる。