2019年7月22日

中国国家話劇院『リチャード三世』 韓国ナショナル・シアターカンパニー『ボッコちゃん~星新一 ショートショートセレクション~』観劇レポート



東アジア文化都市2019豊島スペシャル事業として、東京芸術劇場にて海外で高い評価を得ている中国国家話劇院『リチャード三世』(プレイハウス 4月5日(金)~7日(日))、韓国ナショナル・シアターカンパニー『ボッコちゃん 〜星新一 ショートショートセレクション〜』(シアターイースト 5月30日(木)~6月2日(日))が上演された。


中国国家話劇院『リチャード三世』

中国で最も歴史があり、現代演劇をリードし続けている中国国家話劇院。
シェイクスピア史劇『リチャード三世』を現代的に解釈し、中国の伝統演劇の要素を取り入れた本作にて英国ワールド・シェイクスピア・フェスティバルに招聘され世界各国で公演、好評を博し、今回待望の日本初演が東京芸術劇場プレイハウスにて4月5日(金)~7日(日)に行われた。

京劇独特の「一卓二椅(いったくにい = 机一つと椅子二脚)」といわれる、からっぽに近い舞台。そこから観客を宮廷の密室やロンドン塔の牢獄、街角、そして戦場を俳優がその身一つで描き出し、誘い出す。
劇中に響く中国伝統打楽器や、時折劇中に登場する中国伝統劇の表現方法が、イギリスで生まれたシェイクスピア作品と融合。登場人物の名前や地名は英国名であるものの、まるで中国の王朝の物語であるかのようにも感じられた。

”世界で最も愛されるヴィラン”とコピーにもあるように、狡猾に様々な手を使い周りの者たちを死に追いやるリチャード。本来『リチャード三世』ではなく『マクベス』に登場する3人の魔女が現れ、これから降りかかる不幸を予感させる。さらにリチャードの手によって亡き者にされた者たちの血が、1人また1人と殺めるたびに舞台上に形になり現れ自らの地位のために、手を汚してきたリチャードの欲を表した。

ラストの有名なセリフをリチャードが叫ぶと同時にこの言葉を書した、3つの幕が舞台上に現れた。1つは劇中で話されている中国語、もう1つは英語、そしてもう一つは英語を漢字のように組み合わせた独自の文字。この幕がリチャードの最期の姿を一層引き立て、観客に深い余韻を残した。


Photo by Nah Seung-yeol, provided by National Theater Company of Korea.

『ボッコちゃん~星新一 ショートショートセレクション~』

今も幅広い世代に愛読されているSF作家 星新一。ショートショートの神様と呼ばれる彼の数ある作品の中から、「ボッコちゃん」「知人たち」「おーいでてこーい」「鏡」「宇宙の男たち」「ひとつの装置」を、韓国ソウルでトップの実力を誇る韓国ナショナル・シアターカンパニーが舞台化。東京芸術劇場シアターイーストにて5月30日(木)~6月2日(日)に上演された。

劇場に足を踏み入れると、全体を光沢感のある素材で囲まれた奥行きのある舞台に目を奪われる。この舞台がバー、宇宙船、マンションの部屋などへと次々に姿を変えていくが、どのシーンも共通して静かな不気味さを醸し出す。

緻密な照明で、「鏡」では悪魔の通り道を、「宇宙の男たち」では宇宙空間を面白く表現しており、「知人たち」「おーいでてこーい」では映像を巧みに使った演出が印象的であった。

7人の役者たちは、欲に支配され変わっていく夫婦、自分が誰にも知られていない現実を知り、不安にさいなまれる男、絶望の中で最後の希望を託す男たちなどを卓越した説得力のある身体表現で様々な役を演じ観客を魅了。その一方で、誰もが魅了されてしまうロボットや、何に使うかわからない不気味で無機質な装置までをも身体を使って表現し、演技の幅広さに驚かされた。

今回上演された作品のソウル公演時のタイトルは「I am a Murderer (私は殺人者です)」。明確な殺人者は上演された6編の中には出てこない。しかし登場人物たちが作り出した欲望、人間が作り出し発達した技術が自分たちの首を絞めていく。50年近く前に驚くべき先見の明を持った星新一が作り出した物語を、チョン・インチョルが視覚化し、観客たちへ向け未来への警告を鳴らした。

Photo by Nah Seung-yeol, provided by National Theater Company of Korea.