2019年5月21日

マンガ・アニメ部門スペシャル事業 『マンガ・アニメ区役所』『「これも学習マンガだ!」展 ~マンガで学ぶ11の世界~』について



5月から11月にかけて、豊島区役所本庁舎4F・庁舎まるごとミュージアムでは『マンガ・アニメ区役所』としてマンガやアニメについてのさまざまな企画展が行われます。その第1弾となる『「これも学習マンガだ!」展 〜マンガで学ぶ11の世界〜』について、マンガ・アニメ部門事業ディレクターの山内康裕さんにお話を伺いました。


──「これも学習マンガだ!」展は『これも学習マンガだ! 〜世界発見プロジェクト〜』の特集展示となるそうですが、これはどういったプロジェクトですか?

山内康裕(以下、山内) 2015年に日本財団の主催事業として始まったマンガ作品の選書プログラムで、新たな「世界」を発見できたり、学びに活きるような作品を国内外の多くの方々に知ってもらい、読むきっかけをつくることを目的にしています。2017年度までの3年間で200のマンガ作品を選出・発表しました。選書プログラムはいったん終了し、2018年からは、実行委員会を組み、公式ハンドブックやポスターを書店、学校や公共の図書館など配布するなど、普及活動を進めています。僕は事務局長と選考委員という形でたずさわっています。

──プロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

山内 僕自身の背景として、小中学校のころにもっと多様なマンガに触れていたら、より将来の選択肢が広がっていたのではないかという思いがあります。もちろん「週刊少年ジャンプ」や図書館にあった『はだしのゲン』や『火の鳥』は読んでいたのですが、読んでいる作品の幅は大きくなかったと思います。例えば今回の展示作品でもある『宇宙兄弟』のような作品を、当時読んでいたら宇宙飛行士を目指したかもしれないし、『うつヌケ』を読んでいたらもっと人の気持ちを考えられるようになっていたかもしれない。学校の勉強だけでは学べない価値観や職業の多様性や倫理観など、僕自身多くをマンガから学んできたなと思っているし、そんな学びに活きるマンガを、社会に出る前に出会えるきっかけを作れるといいなと思っていました。

そのようなことを考えていた時に、本プロジェクトの発起人の日本財団本山勝寛氏と出会いました。彼は、世界各地の研究施設や図書館に日本の理解を促進する英文図書を寄贈するプロジェクトを行った際に最も人気があったのがマンガやアニメなど日本のPカルチャーについて英語で書かれた学術書だったという経験、そして彼自身の読書嫌いを克服したのは『お~い!竜馬』だったという経験から、日本のマンガやアニメの持つパワーや影響力を社会課題の啓発に役立たせることはできないかと思っていました。

議論をしていくうちに、マンガが直接的に社会課題を解決することはできなくても、社会課題を知るきっかけにマンガはとても向いている。新たな「世界」を発見するきっかけになるような作品群を選書して発表・普及させることは意義があるのではいか、それがこのプロジェクトのチャレンジの発端です。

──書店のみならず、全国の学校や公共の図書館にもプロジェクトが普及しているのには驚きました。

山内 選書された200選は、社会に出るときだったり、自分と社会の関係性を考えるタイミングに、かたわらに寄り添い価値観を広げてくれるような作品が多く、そのタイミングは、高校生が最も多かったのでしょうね…もっとも普及しているのは高校の図書館、特に進学する学生さんも就職する学生さんもいる高校で普及していますね。

選書した作品は見やすいように11のジャンルに分類しているのですが、あえて学校の科目にあわせず、〈社会〉〈職業〉〈多様性〉というようなラベリングをしています。「こういう職業があるよ」と言われても業界研究の書籍を読むのもよいけど、マンガだと読みやすいしストーリーに入れるから「こんな職業があるんだ」と思えるし、どういう工程や役割分担で仕事が成り立っているかもわかるから「この職業に自分は就きたいか?」と自分に問いただしてもくれる。LGBTの理解もマンガであれば主人公の人となりから読み解け、身近に感じることができる。

あと図書館の司書さんとしては、図書館にマンガ置く理由を作れずにいたんですね。なので積極的にマンガを置く理由となるこのプロジェクトに「こういうのを待っていました!」という形で反応してくれました。選書した全作品が載っているポスターも作っているのですが、これを眺めている学生さんには司書さんも話しかけやすいみたいで。そこから会話が生まれて、学校の図書館がサードプレイスとして機能しやすくなったという話もお聞きしています。

──『マンガ・アニメ区役所』での企画展として、なぜ「これも学習マンガだ! 〜世界発見プロジェクト〜」を選ばれたのでしょうか?

山内 2月に行われたオープニング展示『区庁舎がマンガ・アニメの城になる』で、豊島区役所全体を使いながら展示をしたところ、区民の方々や若い親御さんがたくさん訪れてくださって。そういった方々に豊島区が育んできたマンガ文化を「学び」という切り口でしっかりと見ていただく機会があると、よりマンガを身近に感じてくれるかなと考えたのがあります。

今回の展示では選書した作品のうち、各ジャンルから1作品ずつピックアップした11作品の複製原画を展示しますが、解説パネルにも力を入れています。公式サイトにも掲載している選書委員のみなさんの「なぜ学びができるのか?」という推薦コメントに加えて、今回の解説パネルでは各ジャンルの専門家の方やマンガ家さん本人によるテキストも盛り込んだ、より読み応えのある内容にしています。展示を通してマンガが「学び」のツールとしても機能し活用できるのかということを一望できると同時に、マンガのバリエーションの幅広さも見ることができるライナップになっていると思います。

──展示される11作品の中で、特におすすめの作品を挙げるとするなら、どの作品ですか?

山内 もう、どれもおすすめです(笑)。〈科学・学習〉ジャンルの『宇宙兄弟』(小山宙哉/著、講談社)は夢を持つことの大切さや、目標を定めて乗り越えていくことを描いていますし、〈芸術〉の『ちはやふる』(末次由紀/著、講談社)は成長物語として共感しやすいだけでなく、読むと勇気がわいて「自分も頑張ろう」という気持ちになれる作品だと思います。

〈戦争〉ジャンルに関していえば、今は戦争を体験していない世代のマンガ家さんが、戦争を体験した世代の想いを継ぐ作品が増えていて。そのひとつが『ペリリュー‐楽園のゲルニカ‐』(武田一義/著、白泉社)だと思います。絵はコミカルですが、戦争の現代における解釈についても描かれているので、こういった作品はぜひ若い方に読んでもらいたいですね。

〈多様性〉の『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(田中圭一/著、KADOKAWA)は活字派の方にもよく読まれているマンガです。うつ病にも色々な種類がり、その乗り越え方は千差万別であることがわかる作品。「ちょっと、うつかも…」と感じている人に読んでいただけると「こうすれば解消できるかな?」といった選択肢やヒントをいっぱい知ることができると思います。あと〈社会〉の『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ/著、小学館)は公的機関が舞台となるマンガなので、そういった意味でも11作品の中に入れたかったというのがあります。

──そもそも、どこか固くて足を運びにくいイメージの強い区役所で、マンガの展示が行われること自体が面白い試みですよね。

山内 その足の運びにくさというハードルも下がればいいなとも思っています。東アジア文化都市2019豊島のコンセプトワードは「はらはら、どきどき、文化がいっぱい。」ですが、区役所を新しい文化を発見できる場所にするという部分にも僕は共感していて。企画展をきっかけに、もっと多くの人に気軽に足を運んでもらえる区役所となったらうれしいですね。


文・林みき
写真・平沼孝義


山内 康裕(やまうち・やすひろ)
1979年東京生まれ。マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。イベント・ワークショップ・デザイン・執筆・選書を手がける。2010年にレインボーバード合同会社を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」「アニメorange展」等。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)』、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊(文藝春秋)』等。