2019年5月20日

舞台芸術部門キックオフ・トーク



「東アジア文化都市2019豊島」で3月から11月にわたり展開する舞台芸術部門。総合ディレクターと事業ディレクターによるキックオフ・トークが、去る3月14日、あうるすぽっとにて開かれました。その様子をレポートします。


2019年2月の開幕式典を皮切りにスタートした「東アジア文化都市2019豊島」。中でも区民が参加できるさまざまなプログラムをラインアップし、注目を集めているのが舞台芸術部門です。キックオフ・トークには総合ディレクターを務める宮城聰さんと、事業ディレクターの多田淳之介さん、石神夏希さんが登壇し、その全容をプレゼンテーションしました。後半はデザインストラテジストとして活躍する太刀川英輔さん(NOSIGNER代表)を聞き手に迎え、会場の参加者からの質問を取り入れた白熱のクロストークに。未来の豊島区を見据えた、舞台芸術部門のプログラムが明かされました。

はじめに口火を切ったのは、総合ディレクターの宮城聰さんです。そもそもなぜ東アジア文化都市が生まれたのか? そのモデルはヨーロッパの「カルチュラル・キャピタルオブユーロ」であることを指摘します。ヨーロッパの歴史は戦争の歴史。文化の架け橋、交流なくして、相互理解は生まれません。東アジアでも日本・中国・韓国がタッグを組み、2014年から「東アジア文化都市」が始まりました。

豊島区の東アジア文化都市の特徴は、3本の柱の一つに舞台芸術を据えていること。生身の肉体がなければ成立しない舞台芸術こそ、他国の文化への敬意を直接的に感じさせるメディアではないかと宮城さんは語ります。文化について考えるとき、古今東西さまざまな文化が影響を与え合い、「混交」があったことを忘れることはできません。宮城さんはご自身が演出する『マハーバーラタ -東アジア文化都市2019豊島バージョン-』を、平安時代の日本にインド叙事詩が入ってきたことを仮定した絵巻物、というコンセプトで上演するそうです。『マハーバーラタ -東アジア文化都市2019豊島バージョン-』は11月23日(土)、24日(日)の2日間、池袋西口公園野外劇場での上演です。

舞台芸術部門総合ディレクター
宮城 聰

コンドルズ
勝山康晴

続いて事業ディレクターの一人、この日はご出張で不在の近藤良平さん(コンドルズ)に代わり、コンドルズのプロデューサーである勝山康晴さんがプロジェクトの概要に触れました。コンドルズ×豊島区民『Brideges to Babylon ―ブリッジズ・トゥ・バビロン―』と名付けた新たなプロジェクトは、できるだけ制限を設けず、あらゆる豊島区民と共に立ち上げる作品です。性別も国籍も問わず、幅広い年齢層の方に、できれば障がいのある方にも参加していただきたい。そんなボーダレスな作品を構想中なのだそう。身体に根差した表現だからこそ、たとえ言葉が通じなくてもプリミティブに共有できるものがあると、勝山さんは語りました。コンドルズ×豊島区民『Brideges to Babylon ―ブリッジズ・トゥ・バビロン―』は11月20日(水)~23日(土)、Hareza池袋芸術文化劇場で上演します。

次に事業ディレクターの多田淳之介さんが、3月からスタートした『アトカル・マジカル学園』についてお話ししました。「アトカル」とは豊島区が取り組む国際アート・カルチャー都市構想のこと。アートやカルチャーのもつ創造力で、持続し発展する都市の実現を目指す豊島区。その未来は、さまざまな場所でさまざまな人たちがアートやカルチャーを身近に楽しんでいるのではないか? そんな風に考えた多田さんは、未来から学園がやってくる設定で、ワークショップを展開する「マジカル学園」を立ち上げます。

具体的なプログラムをご紹介しましょう。俳優やダンサーを先生に迎える「マジカルへんしん教室」。そして地元の人たちを先生に迎え、親子で参加する地域密着型の小学校「としまおやこ小学校」。ここでは、例えば整体師さんが、身体を知る「理科」を担当したり、写真屋さんが、街の歴史を写真で教える「社会」を担当したりするのだそう。そのほか親御さんたちが子どもを預け、観劇や美術、映画鑑賞などをしている間、子どもたちもアートのワークショップを体験できる「アート体験支援型託児」も実施します。多田さんのプログラムは、豊島区の社会基盤そのものへの提案を感じさせるものでした。

そして最後に、同じく事業ディレクター、石神夏希さんのプレゼンテーションです。石神さんが立ち上げる『Oeshiki Project』は、雑司が谷にある鬼子母神堂を中心に江戸時代から続く年中行事「御会式」と連携して実施するプロジェクト。東京にある三大御会式のなかでも、雑司が谷の御会式は宗教行事を超えて、地域行事として続いてきた歴史があります。「万灯」という大きな灯篭を中心に、最大数千人が太鼓を叩いて練り歩き、3日間で約30万人が訪れる御会式。この行事の当日に、豊島のまちを巡るツアーパフォーマンス『BEAT(仮)』を、石神さんは構想しました。石神さんがこれまで手がけた作品の特徴は、その土地に暮らす人たち自身が出演者になるところ。参加者は、そこに生きる人たちと、まちの物語に出会います。

特に今回フォーカスするのは御会式の「太鼓」です。太鼓を叩くことで、地域の外から来た人でも言葉がわからなくても一緒に歩ける一体感に着目したと、石神さんは話します。参加者はパフォーマンスを体験した後、地域の人々と共に御会式の行列に合流します。プロジェクトにはプロのミュージシャンやドラマトゥルクのほか、中国人アーティストが参加。中国系の移民が多い豊島区。彼らのリサーチがどのように反映されるのでしょうか? 10月の「御会式」だけでなく、上演へ向けた制作プロセスそのものをアートプロジェクトとして展開します。

キックオフ・トークの後半は聞き手に太刀川さんを迎え、会場の観客からのQ&Aを交えたクロストークに。観客が3人一組になって登壇者への質問を考え、QRコードを通じて登壇者へ送る画期的なシステムで、質問を受け付けていきました。「舞台芸術に触れたことがないがどう楽しめば良いか」「このような事業をどう評価するのか」などの質問に応答していくなか、登壇者の議論が深まったのが「豊島区のイメージってどうですか」という質問です。

宮城 他の自治体と比べ、芸術文化を核にする意識に、一種の切迫感があるのを感じます。

太刀川 消滅可能性という話がある中で、多様性を活かし、新しい活動が生まれてくる状態を作ろうという考えは素晴らしいですよね。

石神 未来を先取りしていると思いました。

多田 演劇が地域のコミュニティ形成や子どものコミュニケーション能力育成に効果があるということは証明されていても、なかなか広がっていかない。これを機に豊島区が未来を見せて、他に後追いしてもらえたらいいですね。

宮城 「アート体験型支援託児」が根付いて当たり前になれば、まさにそれが「レガシー」になります。ずっと後になって「これ、いつから始まったんだろう」と調べてみると、「東アジア文化都市2019豊島」からだったんだ、みたいなことになると良いですね。

舞台芸術部門のキックオフ・トークは、プログラムが目指す未来について、意見がまとまったところで締めくくられました。すでにスタートしている『アトカル・マジカル学園』をはじめ、プロジェクト型の『Oeshiki Project』、ボーダレスなコンドルズ×豊島区民『Brideges to Babylon ~ブリッジズ・トゥ・バビロン~』、そしてフェスティバルの最後を飾る『マハーバーラタ-東アジア文化都市2019豊島バージョン-』、それぞれのプログラムへの期待が高まるトークになりました。


取材・文:株式会社ボイズ(及位友美+佐伯香菜)
写真・松本和幸


舞台芸術部門総合ディレクター 宮城 聰
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京芸術祭総合ディレクター。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、1990年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、またアウトリーチにも力を注ぎ「世界を見る窓」としての劇場運営をおこなっている。2017年『アンティゴネ』をフランス・アヴィニョン演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『マハーバーラタ』『ペール・ギュント』など。2006〜2017年APAFアジア舞台芸術祭(現アジア舞台芸術人材育成部門)プロデューサー。2004年第3回朝日舞台芸術賞受賞。2005年第2回アサヒビール芸術賞受賞。2018年平成29年度第68回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

Photo © 新良太

舞台芸術部門事業ディレクター 多田 淳之介
1976年生まれ。演出家。東京デスロック主宰。富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督。APAFアジア舞台芸術人材育成部門ディレクター。東京芸術祭プランニングチームメンバー。高松市アートディレクター。四国学院大学非常勤講師。古典、現代戯曲、ダンス、パフォーマンス作品まで、現代の当事者性をフォーカスしアクチュアルな作品を立ち上げる。全国の文化施設、教育機関で演劇を専門としない人との創作、ワークショップも積極的に行い、演劇の持つ対話力・協働力を広く伝える。韓国、東南アジアとの海外共同製作も多数。2014年韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。

Photo © 平岩 享

舞台芸術部門事業ディレクター 石神 夏希
劇作家。NPO法人 場所と物語 理事長。The CAVE 共同創立者・共同ディレクター。1999年よりペピン結構設計を中心に活動。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。近年は横浜を拠点に国内各地や海外に滞在し、都市やコミュニティを素材にサイトスペシフィックな演劇やアートプロジェクトを手がける。また『Sensuous City [官能都市]』(HOME’S総研)をはじめとする調査研究、東京都およびアーツカウンシル東京との共催事業『東京ステイ』ディレクター、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点『The CAVE』の立ち上げなど、都市に関するさまざまなプロジェクトに携わる。

Photo © 菅原康太

太刀川英輔
デザインストラテジスト / NOSIGNER代表 / 慶應義塾大学大学院SDM 特別招聘准教授 / 静岡市 文化庁芸術拠点形成事業 ブランディングディレクター / グッドデザイン賞審査委員
1.ソーシャルデザインで美しい未来をつくる。(デザインの社会実装)
2.発想の仕組みを解明し、社会の進化を生む変革者を増やす。(デザインの知の構造化)
この2つを目標に活動するデザインストラテジスト。建築・グラフィック・プロダクト等の領域を越えてデザイン活動を続けており100以上の国際賞を受賞。また多くの国際賞の審査員を歴任する。SDGsに代表される様々な社会課題に精通し、デザインで社会を進化させる活動を続けている。

勝山康晴
コンドルズプロデューサー兼ROCKSTAR(有)代表。プロデュースするダンスカンパニー「コンドルズ」のNHKホール公演、渋谷公会堂公演を即日完売超満員+追加公演にする。作家として「コンドルズ血風録」(ポプラ社)などがあり、「芸術新潮」はじめ数々の媒体で執筆。TOKYO FM、文化放送、Nack5などのラジオ番組でパーソナリティも勤めた。ロックバンド「FF0000」のボーカル、作詞作曲担当。エピックからメジャーデビューし、日産、カルピス、などのTVCMにタイアップ。NHK「MUSIC JAPAN」出演。早稲田大学卒。地元である静岡市が進める「ラウドヒル計画」総監督。元桐朋学園芸術短期大学客員教授。