2019年4月4日

舞台芸術部門 中韓演劇を楽しもう


『リチャード三世』

『ボッコちゃん 〜星新一 ショートショートセレクション〜』
イラスト原画:真鍋博「ミステリマガジン 1979年1月号/早川書房」表紙(原画) 愛媛県美術館所蔵


4月5日(金)から東京芸術劇場 プレイハウスにて中国国家話劇院による『リチャード三世』が、5月30日(木)から東京芸術劇場 シアターイーストにて韓国ナショナル・シアターカンパニーによる『ボッコちゃん 〜星新一 ショートショートセレクション〜』が上演されます。海外で高い評価を得ている両作品、それぞれの演出家の方にメールインタビューを行いました。


『リチャード三世』演出、王暁鷹(オウ・ギョウヨウ)さん

2012年4月の英国ワールド・シェイクスピア・フェスティバルでの初演以降、世界各地で上演され、好評を博している『リチャード三世』。シェイクスピアによる史劇を現代的に解釈し、中国の伝統演劇の要素を取り入れた本作は、中国国家芸術院団優秀演目賞などを受賞しています。日本での初演を控える中、王さんに演出の意図や、上演に向けての意気込みを伺いました。

──これまで世界各国で上演されてきた『リチャード三世』ですが、国によって観客の反応などに違いはあったでしょうか?

王暁鷹(以下、王) シェイクスピア劇の登場人物がどのような人間性、内面性を持っているかについて、世界の観客はほぼ共通認識を持っていると思います。そしてこのリチャード三世の入り組んだ性格、権謀術数の数々は、現代の私たちが置かれている現実と実はつながっていると理解しています。

私が『リチャード三世』を演出する上で強調したかったのは、彼の「陰陽両面」の人格的な結合です。世の中に見せている自分の一面と、内心の奥に封印したもう一つの自分です。リチャード三世は今も全世界におり、それぞれに「陰陽両面」の人格を隠し持っているのです。ですから、世界各国の観客の反応というのは、まさにこの一点に対する共鳴にほかなりません。

上演や再演を通して感じたことについて申し上げますと、そもそも西側諸国において中国伝統演劇に対して「古めかしく」「画一的」といった先入観がある中で、私は中国伝統劇の表現技法、様式を大量に用いてシェイクスピアの劇的世界を表現しました。こういった融合がある種の「現代的意味づけ」を与えることになり、各国の観客はそれを大いに面白がってくれました。中国の伝統演劇と世界の演劇が融合できることを認めてくれたのです。

そして、この融合の中から中国の伝統劇独特の表現様式を自然に受け入れただけでなく、中国文化に対する新しい興味を持ち、その認識を改めることになりました。これこそ私が最も待ち望んだ芸術的効果でした。

──日本での『リチャード三世』上演は今回が初めてとなります。作品に対して日本の観客はどのような反応を示すと予想されますか?

 日本の観客は世界の名舞台の豊富な鑑賞体験を持ち、目が肥えていますよね。中国の文化芸術に対しても、相照らし慣れ親しんだ長い歴史があります。中国の伝統劇とシェイクスピアの名作の出会いが、さながら珠玉の連なりとなって「合璧連珠(がっぺきれんじゅ)」の舞台をお楽しみいただけると信じています。中国と日本は同根の文化を持っているのですから、日本の観客は「陰陽両面」の哲理を西洋の観客よりも深く味わって下さるに違いありません。

──『リチャード三世』の上演を楽しみにしている日本の観客へのメッセージをお願いします。

 中国演劇と日本演劇は相照らす伝統を持ち、日本は西欧世界との演劇交流において数多の成功体験を得て、その成果は中国演劇にとって大きな啓発となってきました。文化芸術は中日両国民をしっかりと結ぶ絆であり、心の架け橋でもあります。私たちを互いに向き合わせてくれるだけでなく、東方世界に共にある中国と日本、私たちの目を世界へと向かわせてくれます。

シェイクスピア400年の演劇世界はイギリスや西洋だけのものではなく、中国のものであり、日本のものであり、韓国のものでもあり、世界のものであるのです。東方世界の表現様式によってシェイクスピアを上演することは、世界と共にシェイクスピアの楽しみを分かち合うことなのです。4月5日、6日、7日、東京芸術劇場で皆さまのお越しをお待ちしております!

Photo © Nah Seung-yeol, provided by National Theater Company of Korea

『ボッコちゃん 〜星新一 ショートショートセレクション〜』脚色・演出、チョン・インチョルさん

短篇小説よりもさらに短く、意外なアイディアに満ちたショートショート。このスタイルを確立した作家・星新一による7作品を舞台化し、2017年に『I Am a Murderer(私は殺人者です)』のタイトルでソウルにて上演された舞台は、若い観客の圧倒的な支持を得ました。星新一と韓国演劇という意外なコラボレーションが、どのようにして実現したのか、『ボッコちゃん 〜星新一 ショートショートセレクション〜』の脚色・演出を手掛けるチョン・インチョルさんに伺いました。

──日本では星新一は「ショートショートの神様」として広くその名を知られていますが、どのようにして彼の作品と出会ったのでしょうか? また演劇にしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

チョン・インチョル(以下、チョン) 本作品の映像デザイナーのチョン・ビョンモクさんの紹介で、星新一さんの作品を知りました。話の中にも思いがけない結末が用意されていて、大変驚きました。

2017年の春頃でしたが、ある日家を出たところ、目の前が見えない程の大気汚染粒子(PM2.5)が俟っていて大変びっくりしたのですが、黒いマスクをつけて行き交う人々もとても恐ろしく感じられました。その時、彼が書いた作品の中で、人類の暗い未来をテーマにした『ひとつの装置』が思い出され、これは何としても演劇にしなければと決心したのです。

Photo © Nah Seung-yeol, provided by National Theater Company of Korea

──星新一作品のどのような部分に魅力を感じますか?

チョン 私が星さんの作品を好きなのは、科学・技術文明に対する冷酷な視線と、その中で生きていくしかない人間に対する憐みの心があるからです。星さんの人間に対するこの愛情を感じなかったら、演劇をつくろうという発想にはいたらなかったことでしょう。私は、星新一さんが書かれた作品は、星さんが人類に送る愛と警告の悲鳴だと思っています。

──今回の上演では星新一原作の6作品が上演されます。脚色・演出をされる上で重視されたこと、心がけたことをあげるとするなら?

チョン 小説が原作となっている演劇作品を演出した経験が何度かありますが、基本的に原作に多くの脚色をせずに演劇として成立するように創作しています。小説の中で物事を説明している長い文章だけをカットするようにしているくらいです。そうすることにより、観客は、小説と演劇のどちらも体験することになります。

Photo © Nah Seung-yeol, provided by National Theater Company of Korea

──上演を楽しみにしている日本の観客へのメッセージをお願いします。

チョン 多くの努力を重ねてつくり上げた作品を、星さんの故郷である日本で上演することができ大変光栄に思います。

韓国で上演した際は、作家が提示した人類の暗い未来に戸惑った観客もいましたが、日本では多くの方が星新一さんの作品をご存じかと思います、私たちの作品をどのように見てもらえるのか、とても興味があり、楽しみにしています。ぜひご期待ください。


文・林みき
中国語インタビュー翻訳:任 双双(国際協力交流センター/本公演プロデューサー)
菱沼彬晁(ITI国際演劇協会日本センター(UNESCO/ITI)/本公演担当理事)


王暁鷹
人気・実力とも中国現代劇の最前線を走り続けている演出家。中国戯劇家協会副主席の任にあり、昨年まで「国家話劇院」の副院長も務めていた。
1957年安徽省生まれ、1984年に中央戯劇学院演出科を卒業。中国で初めて演出家として博士号を取得、中央戯劇学院の教壇に立つ。中国現代話劇のほか京劇、越劇など伝統劇とのコラボレーションも試み、翻訳劇では『リチャード三世』のほか、アーサー・ミラー『るつぼ』、マイケル・フレイン『コペンハーゲン』などを演出。外国の劇団のためにブレヒト『コーカサスの白墨の輪』などの演出も行っている。著作は『虚構から詩的イメージへ』、『演劇の虚構性』、『演劇的思考』など多数。

チョン・インチョル
演出家
2006年の『沈黙』で演出家としてのキャリアをスタート。旧知の仲である劇作家のキム・ウンサンと『スヌ伯父さん』『シドン洋服店』『木蘭姉さん』でコラボレーションし、高く評価された。また、『黄色い封筒』『ゲーム』では社会と政治の矛盾を扱い、注目を浴びる。2015年にシアターカンパニー“ドルパグ”(突破口)を立ち上げ活発に創作を続けている。