2019年3月16日

舞台芸術部門スペシャル事業 「アトカル・マジカル学園」について


|02|東アジア文化都市2019豊島 インタビュー特集|


「変身する」をキーワードに舞台芸術を身近に楽しむ教室『アトカル・マジカル学園』が始まります。担当の舞台芸術部門事業ディレクターの多田淳之介さんにお話を伺いました。


──これまで多田さんは様々な演劇ワークショップを開催されていますが、共通する趣旨やテーマをあげるとするなら何になりますか?

多田淳之介(以下、多田) これは誰が行うワークショップでも共通していることだと思いますが、発声練習の仕方や台詞をうまく言う技術を教えるのではなく、演劇の持っている、ものの見方やコミュニケーションについて考える体験をしてもらうことですね。あと加えて気をつけているのは、楽しむこと。僕自身も、参加者の方々と一緒になって「今日はいったい何が起こるんだろう?」と楽しみながら行なっています。そしてワークショップの良いところは失敗がないこと、むしろ失敗が面白かったり、そこに発見があったりもします。ワークショップのはじめに参加者の皆さんが打ち解けられるようにシアターゲームを行うんですが、わざと失敗しやすいゲームをやるときもあります。なぜかそれが面白い。失敗って笑っちゃうんですよね。この失敗を恐れない、失敗を楽しむ気持ちって、すごく大切だと思います。

──昔に比べると演劇ワークショップが開催されることが増えた印象がありますが、これはなぜでしょう?

多田 公立劇場をはじめとする劇場が、演劇をただ上演するだけでなく人材育成やいわゆるアウトリーチ、演劇の力を社会生活に活用し始めたこともあるでしょうし、芸術や演劇がコミュニケーション能力の育成に役立つという考えが日本の教育の現場にも取り入れられはじめたこともあると思います。今は学校にアーティストを派遣するための助成金制度もありますし、それを活用する学校も随分増えました。企業などでも研修にワークショップを取り入れるところも増えてきていますし、僕も人材育成の担当者にワークショップを教えることもあります。ここ10〜15年で、演劇と社会の関わり方が大きく変わってきたのを感じますね。

──東アジア文化都市2019豊島のスペシャル事業として行われる『アトカル・マジカル学園』は「変身する」がキーワードとなっていますが、なぜ「変身する」を選ばれたのでしょうか?

多田 僕はワークショップや芸術を見たり体験すること自体が変身体験だと考えていて、舞台に立つこともひとつの「変身」と言えますが、舞台を観た後にいつもの景色が違って見えるという体験も「変身」で、それは芸術の大切な役割だと思うんです。今の子どもは学校での役割が決まってしまっていて、窮屈な思いをしている子もいる。子どもだけでなく、大人も社会的な役割の中で窮屈に生きている人も多いと感じています。普段の自分の役割から「変身」してみると開放感もあるだろうし、自分について新たな発見もあるかもしれない。人生を楽しくするヒントを得られる場にできたらいいなと考えています。

──3月15日(金)に開催される『大人のための演劇教室』は、どんな内容になるのでしょうか?

多田 この日は参加される方が普段おかれている役割と、それとは全く違う役割のふたつを使って遊んでみようと考えています。お姫様も良いし、お父さんでもお母さんでも先生でも、やったことがないけどやってみたい役割というのは誰でも少なからずあると思いますし、この日は参加者が大人なので学校生活の記憶は全員あるでしょうから、マジカル学園というフィクションの学校の中での役割をどう演じるか、という設定もやってみたいですね。

──3月17日(日)に開催される『ヌイグルミ←(うらがえし)→ミルグイヌ ワークショップ|へんてこパペットづくり』では大月ヒロ子さんが講師をつとめられますが、彼女を選んだ理由は?

多田 大月さんの活動は以前から注目していて、彼女のワークショップを受講したり、拠点のIDEA R LAB.にお邪魔したりしていて、去年は二人で合同ワークショップもしました。前半は大月さんがぬいぐるみや古着を使ってパペットを作るワークを、後半はそれに名前と性格をつけて人形劇をつくるワークを僕がしたんですが、これがすごく楽しかった。素材となるぬいぐるみにハサミを入れるとき、みんな最初はためらうんですが、一度ハサミを入れるとあとはジョキジョキと切り刻んだり貼り合わせたり、何かのルールから解放されていく感じがあって、気づいたらみんな夢中になってる。そして布の切れ端がだんだんゴミに見えなくなってきて、切れ端をゴミ箱に捨てずに素材置き場に戻すようになるし、それをまた他の誰かが素材として使ったりすることもありました。廃品を使うワークショップならではの面白さだと思いますが、ものの見え方が驚くほど変わりますし、ものを大事にする気持ちや生き方についても考えちゃいますね。

──3月以降の『アトカル・マジカル学園』は豊島区の区民ひろばと地域文化創造館を巡回する予定となっていますが、ワークショップの内容もそのつど変えていくのでしょうか?

多田 今のところ全15ヶ所で開催する予定で、3人のメンバーで手分けをし、各地域のニーズにあわせつつプログラムを設計しようと考えています。メンバーですが、ひとりは南波圭さんという、何年も小学生向けのワークショップを行なっている女性の俳優さん。彼女は身体を使っていろんなものになったりするワークショップが得意で、何より楽しませ上手ですから、身体も心も楽しめる内容になると思います。

もうひとりはダンサーでもあり振付家でもある岩淵貞太さん。彼のダンスは自分の体の中で起きていることと、身体の外の環境で起きていることのふたつを考えながら踊るというものです。彼が持っている身体への向き合い方をに少し教え触れてもらうだけで自分の身体に対する感覚が変わる、まさに「変身」できると思うので、ぜひ色々な世代の方に体験して欲しいですね。

──演劇のワークショップに興味はありつつも、なかなか最初の一歩を踏み出せずにいる方へのメッセージをお願いできますか?

多田 「演じる」と聞くと、なんだか特殊なことに思えるかもしれませんが、実は誰もが演じながら生きているんです。相手に合わせて自分をコントロールしていますよね?自分をどう見せよう、相手にどう思われたいかを考えることはもう既に「演じる」ことなんです。嘘とか騙すことではなく、当たり前に誰でもやってることなんですね。「演じる」ことは「生きる」ことに必要不可欠なのになかなか練習もできないし、何事も上手くなるには遊んで楽しむのが一番ですが「演じる」で遊ぶ機会もない。ぜひこの機会にカラオケに行ったりスポーツをするくらいの感覚で遊びに来てもらえたらと思います。演劇でもダンスでもワークショップはそれぞれがそれぞれの楽しみ方ができる、自分が自分で良いんだという場でもありますから、安心して参加していただけたらうれしいです。


文・林みき
写真・平沼孝義


大月 ヒロ子
有限会社イデア代表取締役 ミュージアム・エデュケーション・プランナー
板橋区立美術館学芸員を経て、遊びと学びの空間デザイン、ソフト開発を行う有限会社イデア設立。大阪府立大型児童館ビッグバンの総合プロデューサー、東京国立近代美術館客員研究員、国立歴史民俗博物館客員准教授など歴任。2013年に日本初のクリエイティブリユース(廃材や端材、見捨てられた空間や土地を、人のクリエイティビティーを使って、新たな価値を持ったものに作り変える)の実験拠点IDEA R LABを開設し、国内外での活動にそのノウハウを生かしている。著書:『クリエイティブリユース──廃材と循環するモノ・コト・ヒト』(millegraph)他多数。グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、国際児童図書評議会賞、福武文化奨励賞など。

南波 圭
俳優
桐朋学園大学演劇専攻卒業。蜷川幸雄演出「グリークス」「三文オペラ」、平田オリザ演出「北限の猿」「ロボット版銀河鉄道の夜」「南島俘虜記」、チェルフィッチュ/岡田利規演出「ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶」「現在地」 等に出演。現在、青年団所属。また、実の妹の南波早と姉妹演劇ユニット「なんばしすたーず」を結成。とめどないおしゃべりをしているような上演スタイルから、おしゃべり演劇と評され 「気がついたら参加型」という不思議なパフォーマンス形体をもつ。その他に、NPO法人演劇百貨店のメンバーとして、劇場や学校等で演劇ワークショップの進行役として活動。子供やシルバー世代、障がいを持った人達など、様々な人との関わりに中から生まれる演劇づくりを行っている。

岩渕 貞太
振付家・ダンサー
玉川大学で演劇専攻、同時に、日本舞踊や舞踏も学ぶ。2007年より2015年まで、故・室伏鴻舞踏公演に出演、影響を受ける。「身体の構造」「空間や音楽と身体の相互作用」に着目した、自身の創作作品を発表する。2012年、横浜ダンスコレクションEX2012にて「Hetero」(共同振付・関かおり)が在日フランス大使館賞受賞。舞踏や武術、及び、生物学・脳科学・哲学等からなどからインスパイアされた、独自の身体表現方法「網状身体」を開発。玉川大学芸術学部パフォーミングアーツ学科非常勤講師を務める。急な坂スタジオレジデントアーティスト。2017年度よりセゾン文化財団シニアフェロー。

多田 淳之介
1976年生まれ。演出家。東京デスロック主宰。富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督。APAFアジア舞台芸術人材育成部門ディレクター。東京芸術祭プランニングチームメンバー。高松市アートディレクター。四国学院大学非常勤講師。古典、現代戯曲、ダンス、パフォーマンス作品まで、現代の当事者性をフォーカスしアクチュアルな作品を立ち上げる。全国の文化施設、教育機関で演劇を専門としない人との創作、ワークショップも積極的に行い、演劇の持つ対話力・協働力を広く伝える。韓国、東南アジアとの海外共同製作も多数。2014年韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。